TSUNAGU-T in San Diego vol.2

「Tシャツがコミュニティをつくる」鈴木心

California2016.4.7 Thu.

アメリカ西海岸、南カリフォルニアのサンディエゴ。年間を通して気候のよいことから、この街の住人の多くはTシャツとショーツで暮らす。どんなTシャツを着るかがファッションであり、自分らしさを表現するツールだとさえ、話す人もいるほどだ。ここ数年、地産地消をうたうレストラン、サードウェーブコーヒーやガレージブランドらが集う複合型のライフスタイルショップなども増え、ローカルなつながりで、いいもの、楽しいことを共有するスモールコミュニティの形成が行われているこの街を、Tシャツというキーワードで紐解いていく。

案内役は、広告や雑誌などで活躍する写真家の鈴木心。ライフワークのひとつとして地元の福島を盛り上げ、いかにして豊かなコミュニティを築けるか模索する鈴木が、「福島はサンディエゴたりうるか」という視点でローカルで人気のショップやカフェなどを取材した。

自分が好きなことをやっているんだけど何か?

そんなスタンスが他者にとって新しい提案になっている

サンディエゴで会った人々、店や街の雰囲気にどんな感想を持ったか尋ねると、鈴木心は「うーん」と考えた末に、「自由」と答えた。

「何をしてもいいっていう意味での自由じゃなくて、自分はこう思うって主張してもいい自由な場所だと感じました。“自分が好きなことをやっているんだけど何か問題ある?”っていうスタンスで、そのやっていることが他者にとって新しい提案になっている。“向こうがこうだから、自分はこうする”っていう相対的な姿勢ではなく、“自分が好きだからこうする”っていうことが連立していって、価値観や場のコミュニケーションが密になって広がっている様子が印象的でした」

ドーナッツショップやレコード店、本屋、コーヒーショップ、ピストバイクメーカーなど、サンディエゴでいくつもの場所を訪れ、多くの人から話を聞いた。サンディエゴの魅力が何なのかを尋ねると、共通する単語がいくつかある。

年間を通じて暖かく穏やかな気候

リラックスした空気と時間

ビーチカルチャー

オリジナルTシャツをプロデュースするショップも多く、それぞれに意図や思いがあることがインタビューからわかった(本記事の#2を参照)。鈴木は地元・福島に新しくどのようにコミュニティを形成できるか、という考えで、定期的に撮影会やワークショップの開催などを精力的に行っている。サンディエゴの街の様子から学べることが多かったという。

「福島がサンディエゴたるかっていうところで、いきなり福島がサンディエゴになるのは無理ですけど、でも、近しいところはあるんですよね。人の目を気にしているっていうところは大きく違いますけど、いいスピードで生活していると思うんですよ。ただ、ある程度割り切って常識的な価値観に従わないと生きづらい場所ではあります。あとは、ビジネスの土壌があって、思い切りのよさがあれば、福島でもサンディエゴみたいな表現はできるんじゃないかな。もうちょい、という気がします」

写真を撮る時って、

当たり前だけどすげー見るんですよ。

サンディエゴにおいて、誰もがTシャツで過ごすライフスタイルは、気候、土地、文化に根付いていた。四季があって、山の文化も海の文化もある福島で、土地の文化とTシャツの相性を精査して見定めていけば、地域をつなぐ役割をTシャツに担わせることができる。鈴木は今回の撮影を通じて、その手ごたえを感じたようだ。その裏付けとなっているのは、あくまでも写真家としての視点だ。

「写真を撮る時って、当たり前だけどすげー見るんですよ。なんでも撮っていい状況だとしたら、その土地や店などのどこを抽出するか、っていうことを撮る時点で選ぶんです。“ここだな”っていう要素をいくつか見つけて、すごく精査して、それを合体させて店や街の様子を伝えようとします。だから僕の写真を見れば、自分がいいと思ったサンディエゴっていうのは絶対に伝わると思いますね」

鈴木心

写真家。1980年、福島生まれ。2005年に東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業。アマナに勤務したのち、2008年に独立。広告や雑誌の写真制作、CMやPVなどの映像制作と並行して、自身の作品制作やワークショップ、出張写真館なども行っている。写真集『写真』『高良健吾 海』。2004年のエプソンカラーイメージングコンテスト藤原新也賞、2005年 第24回ひとつぼ展グランプリなど、受賞歴多数。

http://suzukishin.tumblr.com/

動画 上山亮二 / 写真 鈴木心 / 文 中島良平

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