Style: Paint Your White Canvas

Vol.04 半澤慶樹(PERMINUTE)「生態系をつくり上げるように構成するコレクション」

Creator2020.8.24 Mon.

白いTシャツを身につけた表現者を撮影し、表現への思いについてインタビュー。そして、白いキャンバスに絵を描くようにして自らのスタイルをつくりあげていく彼ら・彼女らの声を、白T姿のスナップとあわせて紹介する。シリーズ第4回は、ファッションデザイナーとして「PERMINUTE(パーミニット)」を率いる半澤慶樹。去る3月には新型コロナ禍で東京コレクションが中止となり、転換点にあるともいえるファッション界から彼が思い描く未来とは?

少しのズレも見逃さない緻密なものづくり

ファッションデザイナーの半澤慶樹のデザインプロセスは独特だ。デザイン画を描き、テキスタイルを選びながらそのイメージに近づけていく方法が一般的だが、彼はデザイン画ではなく素材に触れることからスタートする。綿の入ったキルティング素材に触れながらこう説明する。

「今4枚を重ねて厚さを確認してみましたが、これを2枚にするとまた全然違うものになります。最初は大きめのダウン系のアウターをイメージしていたのが、この素材に触りながら、もっと薄くしてスカートなどを作ったらおもしろいかなというアイデアが出てきています。最終地点を思い描いてアプローチしていくデザインのプロセスではなく、素材に触れながら偶発的なものを求めているんです」

手元でハサミを扱い、自らミシンを踏みながら質感、フォルム、印象などあらゆる角度から素材の可能性を探る。そして異なる素材を組み合わせる際には、縫い目のピッチをきちんとコントロールして、そのつながりを丁寧に確認する。少しのズレも許さない。

「コレクションのテーマにしても、普通は早い段階で明確に決めると思うんですけど、僕の場合は言語化できないぐらいボヤッとした状態からスタートします。メーカーさんとの打ち合わせで素材を見せていただいて、いつもお願いしているグラフィックデザイナーとの対話から出てくるキーワードを拾って、それに合いそうなイメージの組み合わせや加工などをリサーチしていきます。やりたいこととやるべきこととの間を彫刻をしていくみたいな感じですね。膨大な量のリソース集めに始まり、そこに触れながら自分が作りたいもののコアを見つけていく作業といえるかもしれません」

そして毎シーズンのコレクションで生まれるのは20ルックほど。「生態系をつくり上げるような」感覚で構成する。

「統制のとれたコレクションをつくる意識よりも、いろんなものが関係しあって、ぼんやりと人間像が立ち上がってくるようなコレクションに惹かれます。常に新陳代謝させて、ファッションショーのときも本番前にモデルの出順やスタイリングを変えたり、常に新鮮な状態を保ちたいんです。ファッションショーは半年後の装いを発表することで、未来を想像させ、見にきてくださる方と共有できることにやりがいを感じます」

現代にある形のファッションを更新することが、デザイナーにとっての大義名分だと半澤は考えている。その一方で、ファッションに限らず、カルチャーを構成するあらゆる要素にフラットに触れられる世の中に育ってきた世代だからこそ、自分の考えを固定化し、一方的に投げかけるのはクリエイターとして誠実ではないという考えが生まれたのだという。

国際的なクリエイターたちのハブの設置

「自分のデザインが目指す射程に余白を設けるというか、伸びもするし縮みもする如意棒のような、それぐらいのアプローチの仕方で服を作る距離感が心地良いと感じています。ただ、それであまりにフラット化していくのは危険なので、ファッション産業がどう大きくなってきたのかを考えたりもするわけです」

特権階級がもてはやし、かつてのヨーロッパ文化の中心地に据えられたきらびやかなオートクチュールの世界。かつては庶民と無縁だったが、資本主義の台頭やファッションそのものの消費スタイルが大きく変化した影響もあり現在ではオートクチュールのあり方が変わってきている。「Tシャツ1着でもオートクチュールになり得る時代」だと半澤は表現する。

「ものだけで生まれる価値ではなく、ものを介して生まれるコミュニケーションだとか、それが生まれた背景による付加価値だとか、ファッションが売れなくなっている現代にどのような価値を提供していくかというのは、僕たちみたいな小規模なブランドのやるべきことです。ビジネスモデルを開発することも、自分にとってデザインの一部分です」

新型コロナ禍で国境を超えての移動が難しくなっている。しかし半澤は向こう2〜3年の目標として、アジア各国を横断的に移動しながら活動できる環境をつくりたいと考えている。

「ファッションデザイナーって、土地に根差して制作を行っているケースがとても多いんですね。国内の特定の産地やメーカーと結びついていたり、商社とのやりとりがしやすいから東京を拠点にしていたり。一定のクオリティを保つためにそれは必要かもしれないですけど、僕はその軸を今後2〜3年でずらしていきたいと思っています。より周辺に人が散らばっていけば、東京以外でのネットワークがつながって新しい表現方法が出てくるはずですから」

近い将来、半澤がPERMINUTEのコレクション制作を予定している場所が東南アジアだ。現在でも高度な手刺繍やオートクチュール並みの高級注文服の文化が残っている一方、貧富の差が激しいために、貧しい層には古着が当たり前。中間層がポッカリと抜けたような環境に対して、プレタポルテの自分たちにできることを試したいと考えている。

「自分は福島出身なんですが、将来的には、地方をベースにしながら国際的なクリエイティブハブみたいなものを作りたいと思っています。ファッションに限らずグラフィックデザインやアート、音楽などジャンルを超えて共生できて、それも日本人だけではなくインターナショナルに人が集まる場です。日本は首都である東京ですら2025年以降人口が減り始めるそうなので、消費も生産の仕方も、さらには生活スタイルも変わります。外国人も関わって新しいものづくりを東京以外から生み出すことができれば、ファッションを生業とする上での新しいモデルになるのではないでしょうか」

半澤慶樹 Yoshiki Hanzawa

ファッションブランドPERMINUTEデザイナー。1992年、福島県生まれ。文化服装学院を卒業後、2016年にPERMINUTEを立ち上げ、2017SSコレクションでデビュー。ブランドのコンセプトは「ユニークな実験を通して、そのプロセスから生命と衣服の新しいかたちを創造する」。
https://perminute.net/
Instagram @_perminute_

写真と文:中島良平

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