PEOPLE vol.58 小島 聖 女優 Hijiri Kojima Actress

どんなときも食べることは自分の中心にあった

Interview2018.5.25 Fri.

小島さんにとってはじめての海外は、映画の撮影で行ったタスマニア(『タスマニア物語』1990年)。デビューしたばかりの13歳の時だった。

「まだ中学生で親元を長く離れるのもはじめてだったから、もう寂しくて寂しくて。その当時のマネージャーさんが男性で、異性に対してすごくセンシティブな年ごろでもあったので、余計に心が開けなかったんですよね。でも、そんな中で救われたのは、撮影現場に現地のケータリングのキッチンカーが毎日来て、その場でご飯を作ってくれていたことでした。オフの時や空き時間に、そのキッチンカーに乗って料理のお手伝いをさせてもらったのがすごく楽しくて、一番記憶に残ってる。その時も、助けになったのは食だったなと、今改めて思います」

大自然や旅だけでなく、彼女を語る上で切り離せないのは、“食べること”。そして、料理をすることも子どものころから身近にあったのだという。

「小さなころから料理は好きでした。母は日常で料理をこなさないといけないから「 また今度ね」と言われてしまうんですけど、父は休日の時間があるときに料理をするから色々と教えてくれて。両親が二人とも働いていたこともあって、高校生のころは自分でお弁当を作っていましたね」

そして、山との出会いと同じ30歳のころ、マクロビオティックを学ぶようになる。本格的に取り組んで、3~4年かけて師範を取るまでに至った。

「大人になって振り返ると、きちんと料理を習ったことがないなと思って、何か学べるものがないかなと探していたんです。世の中的にはロハスブームや自然志向に向かっているときで、マクロビオティックや菜食というワードが目に留まって興味を持ちました。実際に学び始めると、少しずつ自分の体が変化していくのがわかって。変わっていく楽しさから、より深く勉強していくようになりました。どんなことでもそうだと思うんですけど、深く学んでいくうちにいろんなことの辻褄が合ってきて、理屈がわかるようになるんですよね。その楽しさを探求していくうちに師範が取れてしまった(笑)」

現在では、厳密な意味でのマクロビオティックは続けていない。けれど、基礎ができたからこそ、日常のさまざまなな場面に生かすことができている。

「もっと広い意味でいえば、たとえばアラスカに行くとそれだけで断食のような日々なんです。しっかりお腹が空いてから食べるので余計な間食もしないし、食べられるものも限られている。それにインターネットにも触れたくても触れられないですし(笑)。今では、お肉も食べたいときには食べるんですけど、植物性のものだけでおいしく仕上げるマクロビオティックの調理法は、アウトドアでも役立っていて。何日もかかるロングトレイルだと腐るものは持ち歩けないし、何より動物性がないので後片付けも楽なんです。それから、いまは子どもの離乳食にも生かせています。今になって、いろんな場面でマクロビオティック習っていてよかったなと思います」

変化し続けること。女優であり続けること。

ここ数年で、女優としての活躍の場は舞台がベースになっている。それも、小島さんにとっては自然ななりゆきとも言えるのではないだろうか。

「舞台と出会ったのは20歳くらいのときで、「あ、面白い」と、自分にフィットしている感触がありました。その初舞台は、本当に怖くて緊張して。それは今でもそうなんですけど、でもなんだか心地がいいんです。映画やテレビドラマだと、全体像が見えない中でシーンごとにその瞬間で演技をするんですけど、舞台は時間をかけて試行錯誤しながらじっくり脚本と向かい合っていくことができる。共演する相手にもそのときの体調や気分があって、向かい合ったとき『あ、今日はこんな感じなんだ』と受け取って、それに対して自分も自然と変わっていく。そうした一日一日のわずかな変化も楽しいなと思います。それに、舞台の期間の生活ペースも規則正しくてリズムが出てくるところがいいんです。舞台と映画と、どちらがどうというわけではないけれど、自分には舞台が性に合っているんだと思います」

30代の10年を綴った『野生のベリージャム』は、小島さんの人生の一つの大きな節目でもあった。昨年、子どもを出産したことで新しい生活が始まっているのだ。けれど、インドアに落ち着いているかというと、そうではない。出産から2カ月後には舞台に立ち、家族3人でアラスカやスリランカへと旅に出る。むしろ、より密度を増しているようにも見えるこの新たな生活が、きっと彼女の芯をより強くしなやかにし、女優としての拡がりを生みだしていく。最後に、女優としてのこれからについて訊いた。

「 子どもとの生活に慣れることなく、まだ毎日ジタバタしっぱなしなんです(笑)。これまでは自分の欲望だけで生きてきたのが、子どもの人生というもう一つの大切なものができて。子どもといえど他人だから、話をしながら一緒に時間を過ごしていきたい。家族が増えたことで女優として何か大きく変わることはないとは思うけど、出産もすごい経験だったのできっと何かしら生かされていくのかもしれませんね。そして、やっぱり私にとっては山も旅も趣味で、これからもずっと職業は女優なんだと思います。だから、ゆっくりでいいので女優を続けていきたい。 今秋に控えている芝居は母娘の話。自分自身、子どもが生まれたことで自分の母親とも向き合うようになったので、新しい発見をしながら演じられたらいいなと思っています」

小島聖(こじま ひじり)

1989年、NHK大河ドラマ「春日局」デビュー。1999年、映画「あつもの」で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。近年、コンスタントに映像作品に出演する一方、話題の演出家の舞台にも多く出演。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、感性豊かな表現で見ている人を魅了している。今年3月、初のエッセイ集『野生のベリージャム』(青幻舎)を発売したばかり。 出演待機作に、舞台『誤解』(10月4日(木)〜10月21日(日) @新国立劇場 小劇場)の出演が控えている。

写真:黄瀬麻以 文:石田エリ

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