私の大切な1枚 #10 加藤晴久 LUCK’ A 代表取締役

RADWIMPSの1枚が自分を成長させてくれた

Column2018.2.23 Fri.

特別な思い入れのある1枚のTシャツを紹介してもらう連載コラム。国内のインディーズ系を中心に、バンドTシャツを手がけるLUCK’ Aで代表取締役を務める加藤晴久に話を聞いた。

バンドTシャツというカルチャー

1990年代の後半に裏原宿ブームが起こり、AIR JAMとかDEVILOCK NIGHTというイベントなどが行われているのを見て、日本でもバンドTシャツのムーブメントが生まれる様子を体感することがありました。ファッションと音楽がシンクロして一つのカルチャーになっていると感じたんです。音楽性やバンドのイメージがリンクして、Tシャツに付加価値が付く様子を見て、私もそれを着る側から作る側になりたいと考えるようになったのが始まりです。

そしてデザイン事務所に勤め、そこで音楽業界を開拓してバンドTシャツを手がける機会がありました。BEAT CRUSADERSというバンドのマネジメントに売り込みをして、Tシャツを作らせていただいたのが最初だったんですが、やりとりをする中で、バンドのメンバーのかたに名前を覚えてもらえるというのがまずすごく嬉しかった。「いい感じでTシャツ売れてるよ」とか一言をもらうだけで、本当にやっていてよかったという達成感がありました。

元々インディーズの音楽が好きだったので、Tシャツのデザインとマーチャンダイジングを通じて、バンドが自分たちのアイデンティティを表現することに関わりたいと考えるようになりました。独立して音楽に特化した会社を立ち上げようと決意したのが2006年のことです。

RADWIMPSの夏フェスTシャツ

会社創立後は知り合いのデザイナーやイラストレーターと一緒にバンドTシャツを主としたマーチャンダイズを続け、転機となったのが2008年にRADWIMPSの夏フェスに向けて手がけたTシャツです。「おも手Tシャツ」という名前のTシャツなんですが、この時はCD発売のタイミングではなく、特にこれといったテーマがなかったので、片っ端から過去の音源などを引っ張り出してきて聞き直し、バンドの多様性と、ユーモラスな一面を表現しようと考えました。

手のひらのパーがプリントされているんですが、これがUVインクという特殊なインクでプリントされていて、太陽の光を受けると色が変わって手の形が変わる仕掛けになっています。メンバーにもおもしろがってもらえて、デザインとプリント手法の融合により、バンドのイメージが1枚のTシャツに表現できたと感じられました。実際にROCK IN JAPAN FESTIVALの会場で発売されたときには、お客さんたちもザワザワ反応してくれて、大きな手応えになりました。

このときRADWIMPSは、もうすでに大きくなりつつあるバンドだったので、デザインだけではなくて数字やデリバリーなどの管理もできるように、自分自身も経営者として成長しないといけないと考える大きなきっかけになりました。それから10年経ち、今も一緒に仕事をやらせてもらっていますが、ありがたいことに自身が信じるスタイルで高みを目指すことの大切さを感じています。Tシャツなどのマーチャンダイズが、ファンにメッセージを届けると同時に、それがバンドの運営にも役立っていたら嬉しいですね。

加藤晴久

楽日(LUCK’ A)代表取締役 クリエイティブディレクター。デザイン事務所でインディーズ音楽を紹介するフリーペーパーなどの制作に携わったのち、アパレル商社への勤務を経て独立。2007年にバンドTシャツのデザインと製造に特化した会社として楽日を立ち上げる。現在は様々なバンドのTシャツをプロデュースすることと並行し、「モノづくり」にフォーカスしたメディアとしてフリーペーパー『LUCKAND』の発行や、新しいバンドTシャツの魅せ方・価値観を提唱する展示『BAND T-shirts Museum』、Tシャツをキャンバスアートとして展示する『TaG(T-shirts Art Gallery)』の開催などにも携わる。
http://www.lucka.jp
http://luckand.jp

写真:八木伸司 文:中島良平

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