私の大切な1枚 #11 大橋高歩 The Apartment オーナー

NYのストリートが教えてくれたTシャツのチカラ

Column2018.7.18 Wed.

特別な思い入れのある1枚のTシャツを紹介してもらう連載コラム。カルチャーと密接にリンクしたファッションを提案するセレクトショップ『the Apartment』のオーナー、大橋高歩の1枚とは。

『ELEMENTS OF STYLE』というブランドは、僕の青春なんです。90年代のストリート・ファッション創世記に出てきたNY発のストリートブランドで『Supreme』の少し前だったと思います。クイーンズを拠点にするEOFというグラフィティ集団がはじめたもので、ニューヨークでは初期のUNIONなどが扱っていたそうです。ちょうど95年か96年ぐらいですかね。小さなインポートショップやレコード屋には、いまでは考えられないかもしれませんけど、海外のミュージックビデオをダビングしたブート盤が売っていて、僕のヒーローはブルックリン出身のラッパー集団、BOOT CAMP CLIKでした。彼らをはじめ、ORGANIZED KONFUSION、PETE ROCK & C.L.SMOOTH、J-LiveからMr.Complexまで当時いろんなアーティストが『ELEMENTS OF STYLE』を着用していた。僕と友達は「あのブランド、なんだ?」って調べていて、どうやら新宿で買えるらしいと。それでお店に買いに行くんですけど、ほしかった(右)このTシャツは高くて買えなかった(笑)。それで結局、セール品だった、こっち(左)のTシャツを買って帰るんです。

それ以来、夏になると毎年2~3回は着ていて、数十年間、ずっと着続けてきたんです。吉祥寺に『the Apartment』をオープンさせて、インスタグラムをはじめたばかりの頃に「このTシャツを今年も。毎年着ています」みたい投稿したんですけど、なんとこのTシャツのデザイナー本人からコメントが届いた。「そのTシャツまだ持ってるのか!? ありがとう」って(笑)。アメリカのクイーンズから突然に。

「もし昔の版が倉庫に残っていたら、お前らのためにTシャツ作ってやる」なんてことまで言ってくれて。よくよくたどっていくと、僕らがアメリカに買い付けにいく知人と、このデザイナーさんは繋がっていて、僕らのことを話には聞いてくれていたみたいなんですけど。その後、当時の版は壊れちゃっていたみたいなんですけど、わざわざ新しく製版してくれて、このエクスクルーシヴな『ELEMENTS OF STYLE』復刻Tシャツが生まれたんです。これを発売したことで、アメリカのローカルの人たちもだいぶ僕らを受け入れてくれるようになりました。Tシャツ一枚で、グッと人の輪が広がったんです。

先輩から譲り受けた一枚のTシャツが

マイヒーローとの出会いを生んだ

僕は地元が板橋で、こっち(左)のBOOT CAMP CLIKのTシャツはヒップホップのいろはを教えてくれた中学校の1コ上の先輩から譲り受けたものです。「お前にこれあげるよ」と言われたときは、もう嬉しくて、嬉しくて。クラブには頻繁に着て行ってましたね。90年代当時、Wu-Tang Clanというヒップホップグループがすごく人気があったんですけど、彼らが表なら、BOOT CAMP CLIKは裏。Wu-Tang Clanが華やかでメジャー感があるなら、BOOT CAMP CLIKは渋くてコアな存在だったので、このTシャツのおかげでよくクラブでも話しかけられましたし、Tシャツ一枚で同じ趣味趣向の繋がりができたんです。

それで、去年、BOOT CAMP CLIKのメンバー、このTシャツの真ん中の人、“TEK”というラッパーがソロアルバムを出したんです。それで日本にもツアーでくることになって、そのライブTシャツを僕に作ってほしいというオファーがくるんです。WDsoundsっていう日本のレーベルからの依頼で、オーナーは僕と同い年の、それこそ18歳くらいからずっと仲良くて繋がりがあったんです。それでこのTシャツを作らせてもらって、さらにTEK自身が来日中、この店でファンミーティングイベントをやってくれたんです。普通だったらこんな小さなお店に外タレがくることはないと思うんですけど(笑)。お店に来て飾ってあるこのTシャツを見たら、すごく喜んでくれた。「お前、これよく持ってるなー」って。

ストリートの意味を再考する

ストリート・ファッションとTシャツ

僕的には、10代の頃ずっと憧れていたアーティストらとTシャツをきっかけにお付き合いができるようになったことにいまだに驚いていますけど、それこそが洋服が持つチカラというか、ストリート・ファッションとTシャツとの関係性がただのTシャツとデザインということだけではないからだと思うんです。Tシャツはコミュニケーションを生むきっかけにもなるので、とくにアメリカに行くときは、現地の友達が作っているTシャツを絶対に着ていくんですね。そうすると街中やお店などで「お前、⚪︎⚪︎と友達なのか?」って声をかけてもらえるんです。そのTシャツを着ているなら「お前、これも好きか?」とか。ストリートにも、いろいろなコミュニティがあるじゃないですか。こことここは仲が良い。こことあそこはバチバチだ、とか。ストリートカルチャーでいうと、Tシャツには、ホームとアウェイがある。このTシャツはここではホームだけど、ここではアウェイだとか。とくにニューヨークにはそれを強く感じますし、もちろん東京でもありますよね。

ストリートって、結局は人と人との繋がりで、場所だけではなくて、コミュニティのことでもある。別にファスト・ファッションや大手セレクトショップが良い悪いではないと思ってます。でも、どこに着て行っても問題はない、どこに着て行ってもプラスになる確率も低い洋服だということ。それがストリート・ファッションか、そうではないかの違いだと思うんです。

大橋高歩

カルチャーと密接にリンクしたファッションを提案するセレクトショップ『the Apartment』のオーナー。NYで独自のネットワークで買い付けた90年代のデッドストック&古着を中心に展開され、THE NORTH FACEやRalph Laurenのデットストックから、ニューヨークのLO LIFE、VGAなどとの独自のコネクションによって仕入れている90’sヴィンテージアイテムなどを現代的にMIXする。

the Apartment
武蔵野市吉祥寺本町1-28-3ジャルダン吉祥寺106号
TEL:0422-27-5519
Open 12:00~20:00

http://www.the-apartment.net

写真:八木伸司 文:村松亮

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