私の大切な1枚 #13 サラーム海上 音楽評論家/DJ/中東料理研究家

インドの伝統と現代性が融合するPlay ClanのTシャツ

Column2018.10.9 Tue.

特別な思い入れのある1枚のTシャツを紹介してもらう連載コラム。中東やインドなどの音楽を専門とする評論家であり、また旅して学んだ料理の本も好評な中東料理研究家でもあるサラーム海上は、思い入れのあるインドのTシャツブランドを紹介してくれた。

初めてインドを旅行したのは1997年です。2年半のバックパック旅行の後半に4ヶ月ほどバラナシとゴアとデリーで過ごしました。さすがに長旅の最後で体力も好奇心も失っていて、面白そうなものに出会っても立ち向かえる力がなかったんです。

それから帰国すると、日本で映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』が大ヒットしてインド映画が流行りだして、2000年に『ディル・セ 心から』という映画を見たら、その音楽をA. R. ラフマーンが作っていたんですね。後に『スラムドッグ$ミリオネア』の音楽も手がけてアカデミー賞を受賞した人です。その音楽にノックアウトされました。それまでインド音楽はダサいと思っていたんだけど、イギリスのマッシブ・アタックにも負けてないものがあることに気づいて。

これはインドの映画と音楽を掘らなくてはいけないと思って、フリーの音楽ライターとして独立したしばらく後、2000年の年末、南インドを一月訪れました。その時に、バックパック旅行だけでは見えるものが限られていたんだなと、つくづく感じましたね。音楽を探しに行くという前提だと、見えるものが全然違う。古典音楽のコンサートを1日に3本ハシゴしたりして。映画だって、ハリウッドの最新技術がどんどん取り入れられ、ヒット曲も無数に出てきている。当時はインドの経済成長が最も著しい時期でしたからね。これは毎年見に来ないと、取り残されてしまう!と思いました。それに、出会う人たちも素晴らしいし、僕は危険な目なんて遭ったことないです。

そうして通い続けて、2010年だったかな。デリーに住んでいた日本人の友人に紹介されて、デリー南部のショッピングモールにあるPlay ClanというTシャツメーカーのフラッグシップ店に行ったんです。ここのTシャツの面白いところは、ラジャスタン州やチェンナイなどの地方ごとの風物や文化だったり、有名なヨガの導師のガンディーの言葉など、ローカルなモチーフをふんだんに使っていること。

それが、丁寧な刺繍と凝ったプリントでTシャツになっている。すぐ好きになって、毎年行くたびに数枚ずつ買うようになって、もう何十枚もコレクションが増えました。音楽でもTシャツでもそうですけど、僕は昔ながらのローカルなネタを使いながらも、現代のアプローチで作られた表現に惹かれます。今のインドでは古典音楽のような古い音楽でも、若い世代の演奏家が次々と出てきて、現代的な解釈を加えながら演奏して、世界レベルで活躍しているんです。ボリウッド映画の音楽に至っては、アーティスティックな面でも製作予算の面でも既に欧米や日本のポップスを追い越してしまった。伝統と最先端の進んだテクノロジーが共存するインドを感じられるから、Play ClanのTシャツを買い続けてしまうのかもしれません。

サラーム海上

1967年群馬県生まれ。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。著書に『ジャジューカの夜、スーフィーの朝』(DU Books, 2017)、『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』(LD&K, 2016)、『PLANET INDIA インド・エキゾ音楽旅行』(河出書房新社, 2006)、『エキゾ音楽超特急 とびだせジャパニ!』(双葉社, 2003)ほか。選曲出演するJ-WAVEの中東音楽専門番組『Oriental Music Show』が2017年日本民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント番組部門最優秀賞を受賞。2冊目のレシピ本『MEYHANE TABLE MORE!』(LD&K)が来春発売予定。
www.chez-salam.com

写真:八木伸司 文:中島良平

ページトップへ