RecruiT:求人Tシャツ vol. 1

なぜなら外国人は漢字Tシャツが好きだから

Project2019.5.15 Wed.

全国各地のリゾートバイト情報を掲載するリゾートバイト.comや、外国人専門の求人サイトNippon仕事.comを運営する株式会社グッドマンサービス。クリエイティブディレクターの玉川健司とアートディレクターの増田総成がクライアントから依頼を受け、外国人向け求人広告に用いた媒体がTシャツだった。二人の話を聞くと、Tシャツを選んだ利点と必然性に、なるほどと頷かずにはいられないはずだ。

メディアとしてのTシャツの活用

「クライアントから、日本のことをよく知っている外国人、とくに日本語も読めるような人を効率的に採用するソリューションはないか、というお題をいただいたんです」と、最初にグッドマンサービスから依頼を受けたクリエイティブディレクターの玉川健司は言う。なかなか困難なお題だが、そこには二つの背景があった。

一つは、グッドマンサービスがこれまでリゾート求人サイトを手がけてきたこと。インバウンドの需要も増え、またSNSを通じた情報の伝播からメジャーな都市や温泉地以外にも多くの外国人観光客が足を運ぶようになった。多くの日本語を喋れない観光客を接客するために、外国人の労働力は頼りになる。そしてもう一つは、昨今の労働力不足と地方の過疎化に対して、外国人向け求人サイトを運営してきた自社の知見を還元できるのではないかというCSR的な意識だ。

「アートディレクターの増田と以前、『変な日本語のTシャツを着た外国人って多いよな』って話していたことがあったんです。それとタトゥーも多いですよね。アリアナ・グランデが“Seven Rings”って曲を出したと思ったら、直訳して漢字で『七輪』と入れてしまったり、ジャスティン・ティンバーレイクも『曲』って一文字彫っていたり、日本人の感覚としたらおかしい。だけど彼らにとってはカッコよかったりするわけですよね。じゃあTシャツに求人情報を日本語で入れて、読める外国人にとってはそれが求人広告だとわかる、っていう図式はおもしろいと思ったんです。日本語で書かれた求人広告が読めて連絡をしてきたら、それでバイトの一次審査は通過。クライアントのお題にも答えられていますよね」

依頼を受けた玉川は、アートディレクターの増田に話を持ちかけた。そして、求人情報をグラフィカルにそのままプリントしたTシャツを作ることになった。できあがったTシャツを外国人旅行者に着用して歩き回ってもらえれば、町行く外国人の目に留まる求人広告となる。タイトルは、「RecruiT(リクルーT)」。日本のカルチャーが好きで日本で働きたい海外の人々と、国内の様々な企業をつなげる世界初のTシャツプロジェクトだ。

仲居を募集するのは、香川・こんぴら温泉郷の旅館「琴参閣」 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
東京・西多摩の「水井整備」では建設業を募集 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
熱海のリゾートホテル「ゆとりろ熱海」ではレストランサービスを募集 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
箱根のリゾートホテル「ゆとりろ庵」 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
西伊豆のリゾートホテル「ゆとりろ西伊豆」ではホテルフロントを募集 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
番組制作・撮影コーディネートを行う東京・有楽町の「株式会社フライメディア」 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
営業・オフィスワークを募集する会社も。コールセンター「ランゲージワン株式会社」 Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
「熱海TENSUI」は熱海のリゾートホテル Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)
「株式会社 石川」が募集するのは、都内の「ビストロ石川亭」のホールとキッチンスタッフ Photo: Kenichi Muramatsu (55 Co.,Ltd.)

「僕らからしたら当たり前の情報、例えば時給いくらとか、残業の有無とか、そういうものがでっかくプロントされていたらおもしろいと思ったんです」と、グラフィックの意図について増田が説明する。「土木系の仕事だったら土木らしいカラーリングを選んだり、個室寮完備の文字を入れた時には個室っぽく文字をレイアウトしたり、求人情報とグラフィックがリンクするようにしました。それと、外国人から反応がいいだろうと思って取り入れたのは、縦組みや墨の文字です。そこが純粋にカッコいいみたいなコメントももらいましたね。そういうところを入り口に、意味のわかる人に日本での雇用に興味を持ってもらう。コミュニケーションの形としても新鮮だと感じましたね」

すべてのTシャツには、求人窓口の電話番号が必ずプリントされている。そこの情報に興味を持ち、窓口の電話番号に連絡をしてきたら、それで第一審査通過となる。つまりTシャツのグラフィックが、第一審査の日本語テストとなっているのだ。実際に昨年の12月12日(漢字の日)に全部で50枚ほどのTシャツをリリースしたところ、2週間で108件の問い合わせがあったという。小規模なプロジェクトでこの数字はなかなかの成果だ。

プリントTシャツのグラフィックは、日本語のわかる私たちにとってはおもしろく映るが、それを広告的にはふざけることは一切なく、クールなモデルのスタイルと漢字Tシャツのシズル感のギャップを表現する。彼らはメディアとしてのTシャツの資質を的確に読み取り、このプロジェクトを実現した。

次回のインタビューでは、「RecruiT」と並行して進められた、ある映像プロジェクトについて話を聞く。

玉川健司(たまがわけんじ)
福岡県生まれ。クリエイティブディレクター/コピーライター/CMプランナー。ADKマーケティングソリューションズEXクリエイティブユニットに所属。ユーザーと商品の距離を意識しながら、従来の手法に囚われないクリエイティブ開発を行う。受賞歴は「ACC」GOLD/BRONZE/BESTAD賞、「effie」GOLD/SILVER、「WARC」GOLD/Special Award、「Spikes Asia」、「朝日広告賞」、「広告電通賞」優秀作品賞、「TCC」新人賞、「FCC」最高賞など。
https://www.adk.jp

増田総成(ますだふさなり)
静岡県生まれ。アートディレクター。多摩美術大学卒業後、電通テック、ADKを経てCHERRY INC. を設立。表現づくりから関係づくりをコンセプトにユーザー体験を変えるコミュニケーション開発を行う。受賞歴は「2017年クリエイター オブ ザ イヤー メダリスト」、「ACC賞」、「NEWYORK Festival」、「Adfest」、「NEWYORK ADC」、「GOOD DESIGN AWARD」など。
https://chrry.jp

文:中島良平

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